小説 / 外部依存 - 1
まえがき
現在平行して2つの小説を書いていますが、こちらのほうが面白いと思える着想だったため、こちらをメインにすすめるかもしれません。
では、はじまります。
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”フユキ、起きなさい!”
いつもの朝。いつもどおりの朝。
母親の声で起こされるいつもの朝。
考えるだけで、テレビがつく。
ハンドルを握ることなく、車で行きたいところまで行ける。
ここまで、人間が自ら手を下す機会が少なくなった社会において、唯一と言ってもいいアナログは、この母親の声なのかもしれない。
眠い目をこすり起床する。
自室を出ると、妹のハルが寝ぐせをつけた髪の毛そのままに立っていた。
ただでさえ、友人から「天然」だのと言われているだけあって、その姿には違和感がない。なにせ、毎朝こんな妹の姿を目にするのだから。
きっと、半世紀ほど前に、テレビというもので放送されていたアニメーションの中に描かれている ”妹” のイメージを具現化したら、うちの妹みたいになるだろう。
なんで詳しいかって? - そりゃ単純さ。僕はアニメが好きだからね。
三階の自室を抜け、急ぎ足でリビングへ降りていく。
壁は透明塗料で出来ており、外が丸見えだ。ビジネスマンたちが忙しく、車 ーといっても今は陸を走らず空を走る ーが空を一面に埋めている。
忙しくと言ったが、それは嘘だ。だって、”車”は、自立走行するのだから。
リビングへ行くと、母親が機嫌悪そうな顔で僕を見る。
これも毎度の光景だ。
あぁ、早く、自動で起こしてくれるシステムが完成しないものか。
もしくは、この鬼のような形相の母親の機嫌を、一発で静めてくれるシステムができないものか。
そんな馬鹿な想像をしながら、席につく。
父親はもう、出社したようで、家にはいなかった。
妹と、僕と、母親の三人でごはんを食べる。今では農家という仕事もなくなった現代においても、コメは重要な食料である。僕達の家は、パン食ではなく、昔も今も、これからも、ごはん食であろう。
ご飯を食べながらテレビを見る。といっても、置物のテレビではない。角膜の上に貼り付けたコンタクトレンズが、ほぼゼロ距離で網膜にテレビの情報を映しだすのだ。音声は耳の下に取り付けてある、骨伝導スピーカが伝えてくれる。
「「今週に入り、3人が意識不明となりました。ここ最近意識不明となる方が続出していますが、原因は不明、現在、最新のコンピュータがその分析を行っています」」
「またこのニュースか。最近こういうのばかりだな。」
誰に云うでもなく、僕はひとり呟く。
家族の誰も、訝しげな顔はしない。なにせ、僕はひとりごとを呟くのが癖みたいなものだ。
ニュースに飽き飽きした僕は、番組を変える。
きれいなアナウンサーが、スポーツイベントを紹介する。
いかにも朝のような番組だ。この番組も見飽きたが、さっきのニュースよりもマシだ。
「ごちそうさま」
そうつぶやき、僕は学校へ向かう。
「ごちそうさま~」
続いて、妹も元気な声でそうつぶやく。
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僕は草薙フユキ。都内高校に通う、3年生だ。
妹は、草薙ハル。同じく、都内高校に通う、1年生だ。
こういっては自慢になるかもしれないが、妹はとてもかわいい。
もちろん兄妹だから恋心をいだいたりはしないが、正直と天然を調度良い比率で混ぜ合わせた結果できたような妹。
主観だけど身長も高すぎず、いかにもといった感じで、スタイルは幼児体型に近いのだけれど、キャラとそれがあまりにも一致しているものだから、いうことはない。
-そうだな、典型的な妹バカ、といったところだ、僕は。
いつも通り二人で歩いて学校へ向かう。
二人で会話はすることは殆ど無いので、僕はいつもミュージックビデオを見ながら学校へ向かう。透過率を上げれば道も見えるし、危険な状況ともなれば、視覚聴覚共に、自動的にビデオは止まるので安心だ。
半生記前ほどに流行していた、スマートフォンとかいうデバイスでは、よく事故が起こっていたそうだが、コンタクトレンズ式のデバイスが登場してからは、そんな事故もなくなったらしい。
3本ほどミュージックビデオを見終わったところで、高校に到着した。
僕は妹に別れを告げ、教室へ向かった。